釣りの PDCA
BREADEN TIMESをご覧の皆様。こんにちは。フィールドスタッフの津田です。
冷え込んだかと思うと急に暖かくなったり、なにかおかしな秋ですね。でもどうやら、このBREADENTIMES11月号が配信されるあたりから北風が吹いてぐっと冷え込んでくる予報です。となると、いよいよメバルですね。先シーズンはあまり良くありませんでしたが、今シーズンはどうなるでしょう。当たるといいなぁ。
今回は実釣レポートではなく僕が釣りをする際に大切にしていることについて。題して「釣りのPDCA」です。
皆さまPDCAってご存知ですか?僕の本職は製造業での品質管理なのですが、その中での品質の改善の科学的管理のサイクルのことをPDCAと言います。Pはplan、計画です。Dはdo、実行ですね。Cはcheckで評価、そしてAはaction、改善です。結果が思うようなものでなければまたPに戻って、狙いの目標が達成できるまでこの改善のサイクルを何度も回すことが大切だとされています。
何か目標を達成しようとするときには思いつきや場当たり的な対応を取らず、ひとつひとつ意識しながら、記録しながら科学的に進めていきましょう、ということ。そして事実を蓄積していくんです。今の状況はどうか?その中で今自分がやるべきことは何か?そのためには何をするか?その検証はどうやるのか?そして出た結果をどう捉えるのか?だとしたらじゃあ次に何をしなければいけないか?明確にして進めましょう、ということです。
これって釣りにもそのまま使えると思いませんか?というよりも、ある程度経験を積んだ釣り師であれば無意識にやっていることなんだろうと思います。ただ、無意識ではだめなんです。1日に100回キャストするとしたら、100回このPDCAのサイクルを「意識的に」回すこと。適当な釣りをしない。これが僕が釣りをする上で一番大切にしていることです。なぜこれが大切か?それは、釣りにおける「再現性」を手に入れられる唯一の方法がこれだからです。
狙う魚種における今の季節感、その日の天候、時間帯、風の向き、潮の流れ、波の高さ、想定されるベイト、灯りの方向や潮目など目に見える何か、それらを総合的に把握して、じゃあ狙うお魚はあの場所のどこのレンジにいるんじゃないか?とすれば何を使ってどの位置から攻めるか?スピードはどうか?など、過去の経験、知識を使って計画を立てるんです。そこで初めてキャストする。そしてやろうと企てたことをそのままやる。途中で変えない。やり切るんです。
すると釣れた、釣れなかった、結果が出ます。釣れたとしても、やったー思い通りー!とか簡単に喜んではだめですよ。その計画がうまく合っていたのか?本当にそうか?たまたまじゃないのか?その検証をまたPDCAのサイクルに乗せてやるんです。あえて違うことをしてみる、早く巻くとかレンジを少し変えるとか、反証するんです。そしてまた元に戻す、そこで結果が出れば思った通りだったんだな、とその一連の釣りを記憶するんです。同じ状況でもう一度やれるように。
釣れなかったとしたらどうするか?僕はその釣れなかった釣りを3回繰り返します。釣りというものは偶然性が入る余地がどうしても大きいので、やっていた事が正解だったとしてもその通り結果が出ないことも多いんですね。なので3回やる。1回しかやらなかったのにそれを答えだとしてしまうことはとても危険です。実は正解だったのに何かたまたまがあって結果が出ないことは釣りにはとても良くあることなんです。でも3回やって結果が出なければおそらく間違いだと考える。思っていた状況じゃないんだな。じゃあどうするか、また考える。実行してみて初めてわかることもあって、最初に思ったよりも潮が早いとか風が強いとか、あると思います。それを加味してまた計画を変えてキャストする。その繰り返しです。とにかく漫然と釣りをしない。ワンキャストを大切にするんです。
でも、状況はわかってもどこにお魚がいるかも、なんてわからないよ、正解に対する計画なんて立てられないよ。そうおっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。そうですね、まだ経験が充分でなければそうだと思います。ただこのお話は、正解を一発で当てろ、という話ではないんです。計画したことが正しいのか間違ってるのか、それは実はそれほど大切なことではありません。大切なのは、今の自分の立ち位置がどこか?明確にしましょう、ということなんです。今自分がやろうとしていることがどの座標にあるかわからなかったら、結果から導き出した次のアクションの座標も分からないんです。とにかくなんでも良いからやることを決めてやってみる。どこに投げるのか?レンジはどうか?スピードはどうか?正しいかどうかではなく今自分は何をしているのか?それをはっきりと意識するんです。それを繰り返すことが経験になっていきます。そしてそれを繰り返すことによって間違いなく正解に近づいていきます。
あそこにお魚がいるだろう。サイクルを回しながら経験を積んだ釣り師がそう考えたらそれは「想像」です。まだ経験の浅いうちのそれは「妄想」です。想像の原資は経験であり、妄想の原資は欲望なんです。もちろんみんな妄想から始まるんです。しかし精度の高い意識的な釣りを繰り返していくうちに徐々にそれは想像に変わっていきます。今自分の頭に浮かんでいるアイデアは想像なのか?妄想なのか?僕自身もよく考えることですが、その答えは再現性が示してくれます。状況に応じて同じことができること。釣りが上手いってそこですよね。
なんの世界にもプロっています。プロって何?と言えばどれだけ再現性を持っている人か?ということだと僕は思います。野球で例えるなら、たまたまバットを思いっきり振ったらホームランになった!俺はプロだ!ではないですね。じゃあもう一本打ってみろ、と言われます。それを打てたとしたらじゃああと五本打ってみろ、と言われます。そういうことができて初めてプロなんですね。打率3割とかホームラン50本とかの数字はなんの数字なのか?と言えば再現性を表す指標なんです。状況が変わっても同じことが3割もできる。50回もできる。これもPDCAの積み重ねなんだと思います。メジャーリーグの大谷選手なんて、打席ごとにそれをやってるのが見ててすごくよく分かりますよね。構え方、動きのひとつひとつがすごく意識的です。
釣りにおけるプロというのも同じです。メーカーサポートがあればプロ、というわけではなくて、良い結果をどれだけ再現できるか?なんです。それを高めるためには上に述べたような釣りをするしかありません。それが唯一の方法です。言っている僕もまだまだなんですけどね。
去年の同じ11月号のBREADEN TIMESに書かせていただいたエギングにおけるただ巻きメソッドはこのPDCAのサイクルを徹底的に繰り返した結果行き着いたメソッドです。沖の流れでエギを意識させて、ただ巻きに着いて来させて、イカが有利になる乗せ場所を手前に用意しておいて、そこで一気に乗せる。このメソッドの正しさの証明のために徹底的にやったのは反証です。ただ巻きに沖から着いてきたんじゃなくてたまたまそこにいたイカが乗っただけではないのか?とか、どうしても残る疑念というのがあり、その払拭のための反証を繰り返しました。確かに、たまたまそこにいたイカもいるんです。でも着いてきたイカとそこにいたイカでは乗り方、エギへのアプローチが違うんです。
この釣りを繰り返していると沖から来て最後まで乗り切らなかったアオリイカが徐々に近距離に溜まってくるんですね。全てがまた沖に帰ったりしないんです。時間が経つにつれその個体が増えてくる。手前でのあたりが増えてきます。しかしそれは乗るにまで至らず、コンッと触ってくるだけというのがとても多い。乗ったとしても触腕一本とかとても疑心暗鬼です。着いてこさせて想定した乗せどころで乗せたアオリイカは、確信を絵で描いたようにガッツリと抱えるように乗ってきます。エギが急に近くを通った、長距離を狙いを定めながら着いてきた。その差なのだと今のところ考えています。あくまでも今のところ、です。検証を重ねながら真実に向けて精度を高めていく釣り、ワクワクしますよね。
写真はそんな今シーズンのアオリイカ達。サイズがいいのもこの釣りの利点なんですけど、でもその理由は今のところまだ分かっていません笑